妊娠高血圧症候群は、高齢になるほど発症率が高くなります。
妊娠高血圧症候群とは、妊娠することによって体への負担が大きくなり、うまく適応できない状態のことをいいます。
妊娠すると、全身の血管に痙攣のような収縮(攣縮(れんしゅく))が起きることが分かっています。
血管が攣縮すると血圧が上がって高血圧の状態となりますが、この攣縮が腎臓で起こるとタンパク尿が出るようになります。
以前は、高血圧、尿タンパク、むくみのいずれかの症状が見られると「妊娠中毒症」と診断されましたが、現在では、むくみの症状が外され、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧が見られる場合、または高血圧にタンパク尿が伴う場合に「妊娠高血圧症候群」とされます。
むくみは、妊婦さんの約3割に見られるので、むくみだけで母体や胎児が危険にさらされることはないと判断されたからです。
妊娠高血圧症候群の発症時期
妊娠高血圧症候群は、胎児が大きくなって腎臓や血管などに負担がかかるようになる、妊娠後期に発症しやすくなります。
軽症の場合は妊娠34~36週以降に発症しやすくなりますが、重症の場合は、妊娠28~32週と妊娠36週以降の2つの時期に発症のピークが見られます。
また、妊娠32週未満に発症する場合には、重症化しやすいと言われています。
妊娠高血圧症候群と診断された場合には、母子ともに厳重に管理をして、どこまで妊娠を継続していくことが可能かということを、慎重に見ていくことになります。
妊娠高血圧症候群になりやすい人
・高血圧、腎臓病、心臓病、糖尿病などの持病がある人
・家族に上記の病気の人がいる人
・もともと太っている人
・極端に痩せている人
・ストレスの多い人
・多胎妊娠の人
・高齢で妊娠した人
高齢を気にするよりも、合併症を起こさないようにする
統計的に見ると、「高齢」は妊娠高血圧症候群になりやすい要因の一つであることは確かですが、妊娠高血圧症候群には、年齢よりも、高血圧、糖尿病、肥満などといった体質的なことの方が重要なことです。
20代でこれらの合併症がある人と、35歳以上で合併症がない人とでは、前者の方がずっと高い確率で妊娠高血圧症候群になりやすいといえます。
年齢は努力で下げることはできませんが、合併症のリスクは努力によって軽減することが可能です。
高齢を気にするよりも、合併症のリスク軽減に努めましょう。
妊娠高血圧症候群の症状は、高血圧とタンパク尿です。
これらにはほとんど自覚症状がなく、急に血圧が上がって目がチカチカしたり頭痛が起こったりした時には、すでに危険信号といえます。
早期発見のためにも、妊婦健診は欠かさずに受診するようにしましょう。
妊娠高血圧症候群の予防は食事がカギ
妊娠高血圧症候群を予防するには、食事に気を遣うことが第一です。
減塩、低エネルギー、高たんぱくの食事を心がけましょう。
減塩
塩分の1日の摂取量の目安は、10g以下に抑えるようにしたいですが、まずは、10gの塩分がどの程度なのかを確認しておき、毎日の食事で塩分が多くなり過ぎていないかをチェックしましょう。
塩分を抑えるのは難しいかもしれませんが、レモン果汁やショウガなどの香味を上手く取り入れれば、抑えやすくなります。
エネルギー量
一般的に、30~49歳の女性が1日に必要なエネルギー量は2,000kcal程度とされていますが、妊娠すると、妊娠初期には2,050kcal、中期には2,250kcal、後期には2,450kcal程度が必要といわれます。
妊娠中、太りすぎないように体重管理をすることは大切なことですが、妊娠を維持するにはそれなりのエネルギー量も必要になります。
妊娠高血圧症候群を予防するため、むやみにエネルギー量を制限し過ぎることのないようにすることにも注意して、適切なエネルギー量をキープするようにしましょう。
妊娠高血圧症候群予防のために大切なこと
・薄味でバランスのとれた食事
・適切な体重増加
・適度な運動
・ストレスのない規則正しい生活
妊娠高血圧症候群は早期に治療
妊娠高血圧症候群の症状が悪化すると、胎盤の血流が悪くなって、胎児に十分な栄養と酸素が届かなくなり、胎児発育不全になることもあります。
また、お腹の環境が悪くなると、胎児が速く体外へ出ようとして、早産になることもあるといわれています。
一方の母体の方はというと、血流が悪くなるなることで、けいれん発作、呼吸困難、意識障害、ヘルプ症候群になることがあります。
ヘルプ症候群は、妊娠高血圧症候群が重症になり、母体の肝機能に障害を起こし、血小板が少なくなって血が止まりにくくなる状態です。
そうならないためにも、妊娠高血圧症候群と診断されたら、早期に治療することが重要になります。
早めに治療をすれば、症状を悪化させないだけではなく、正常な状態に戻すことができることもあります。
妊娠高血圧症候群の治療の基本は「安静」
妊娠高血圧症候群の治療の基本は、安静にすることです。
安静にして、胎児に少しでも多くの血液を送り届けてあげることが大切です。
症状の程度によっては、入院安静が必要になることもあります。
入院中は、母体の腎機能、肝機能、血液の凝固機能、胎盤機能、胎児の心拍などを注意深く観察して、危険な状態になる前に出産するようにします。
以前の治療では、塩分や水分が厳しく制限されていましたが、現在では、そうすることでかえって母体の血液量を減らして高血圧を悪化させるという指摘もあります。
自宅安静の場合は、主治医の指示をしっかりと守って過ごしましょう。
妊娠高血圧症候群 治療のポイント
・塩分を控える(1日の塩分摂取量は10g以下が目安。重症の場合は7~8g程度)
・低エネルギーの食事
・良質のタンパク質、カルシウムを意識的に摂る(カルシウムには血圧を下げる効果もある)
・休養を十分にとる(疲れやすい午後や夕方には横になって過ごすのがおすすめ)
妊娠高血圧症候群の出産後
妊娠高血圧症候群は妊娠が原因となって起こるので、出産後、ほとんどの場合は治りますが、妊娠高血圧症候群になった人は、その後再び高血圧になる確率が高くなるといわれています。
出産後もバランスの良い食事を心がけて、体重管理には気を遣うようにしましょう。
定期的に婦人科検診を受診して体の状態を把握し、高血圧を予防するように心がけたいですね。